初恋 二度目の恋…最後の恋
「はい」


 私がそういうと満足そうに微笑んだ。高見主任もそうだけど、折戸さんも優しい。優しいというよりは甘いという方が正しいような気がする。思いやりが深いからこそ、それだけ周りに信頼され、そして自分の成績も伸ばしていく。それがすごいと思う。


「今日の先は大事な先なんだけど、妥協はするつもりはないんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。だって、この商品はいい物だし、これを開発してくれたのは坂上ちゃんでしょ。だから、妥協なんかしないでも売れる。さてと着いたかな」



 そんな話をしていると、車は今からの約束先に着いた。駐車上に車を止めると、折戸さんはエンジンを切り、フッと息を吐く。すると、急に車の中の空気がガラッと変わるのを感じた。さっきまでの陽だまりのような暖かさはいつの間にか消え、折戸さんの優しさに奥に包まれた強さが目の前に現れるのを感じた。


 仕事を前にするとこんなに雰囲気が変わるのだろうかと思うほどで、私は折戸さんの横顔から目が離せない。真剣に見つめる先には今からの取引先になるかもしれない事務所が見えている。


 思ったよりも大きな会社の事務所で私の方が少しだけ躊躇する。


「降りるときは気をつけてね」



 私が降りやすいようにドアを開けてくれて、手を貸してくれた。優しさに戸惑いながらも車から降りると折戸さんはニッコリと笑ったのだった。さっきの雰囲気は消えていた。


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