初恋 二度目の恋…最後の恋
 そういうと折戸さんはプレスの効いたスーツのポケットに手を入れると、私の前に出した。そして、ぎゅっと結んだ手を開くと、そこには『いちご飴』がひとつ乗っている。


 濃いピンクのその飴はイチゴの形をしていて、透明の袋に一個だけ入れられているもの。でも、この格好良くて素敵な折戸さんのポケットから出てきたのは可愛らしい『いちご飴』というのがそぐわなくて緊張の緩みもあって、私は笑っていた。


「貰っていいんですか?」


「もちろん。美味しいよ。でも、食べるのは車の中まで我慢してね」


 得意先の会社の廊下で食べるのはさすがにしないけど、でも、ちょっとだけいちご飴にドキドキしていた私は食べたくて仕方ない。脳が疲れたからか、甘い物を欲しがっている。

 
 車に戻ってすぐに私は口に貰ったいちご飴を入れる。コロコロと口の中で転がしていると鼻腔を擽る甘いイチゴの香りが抜ける。


 でも、どうして『いちご飴』なんかがスーツのポケットからでてくるのだろうという疑問はある。でも、甘い味は気持ちを簡単に緩ませる。



「ありがとうございます。美味しいです。いちご飴は久しぶりに食べました。懐かしい味で美味しいです」

「それはよかった。さあ、腹が減ったから行こうぜ。今日は飲茶なんかどう?」



「はい」



 折戸さんはまた私の頭をぽんぽんと撫でた。
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