初恋 二度目の恋…最後の恋
 折戸さんのドSな発言に一気に車の中の温度が下がる。下がるというか空気が凍りついた。冗談なのだろうけど…バックミラー越しに見える折戸さんの表情は真剣に見える。

 
 まさか、本気?


「ここまで来て、牛丼は勘弁です」


 小林さんが不満げな視線を向けると、折戸さんはクスクス笑う。


「牛丼は好きって言ってたろ」


「好きですけど」


 折戸さんの運転する車は車は海辺のお洒落なイタリアンレストランに到着すると、折戸さんは振り返って、私の方を見てニッコリと笑う。


「さあ、着いたよ。気をつけて降りてね。」



 車を降りると素敵なイタリアンレストランがあって、その道路を挟んで少し進んだところには…牛丼屋がある。小林さんは牛丼屋を凝視していた。


「これでも羽織っとけ」


 折戸さんがトランクの中から取り出したのは、見るからに上等そうな若草色のシャツだった。クリーニングから取ってきたばかりなのか、ハンガーに掛かった状態でビニールも掛かっている。


「いいんですか?」


「ああ。俺の着替えだから気にするな」


 小林さんはニッコリと笑うとそのシャツをサラッと羽織った。シャツの裾がハラッと靡く。たった一枚のシャツで雰囲気がガラッと変わる。小林さんの爽やかさが増したような気がした。


「うわっ。このシャツ。着心地最高。貰っていいですか?」


「誰がやるか。それは俺もかなり気に入っているんだ。さあ、行くぞ」


「残念…。折戸さんはいっつも格好いい服ばかりだもんな~」


「お前も買えばいいだろ」


「うーん。俺って食費が掛かるので」


「…蒼空らしいな」


「でしょ」





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