強引男子にご用心!
「どこか行きたい場所あるか?」
「ない……んだけど」
ないのにデート誘いました。
ええ、無計画ですとも。
無言でいたら、磯村さんは立ち止まり、まじまじと私を見下ろすと苦笑した。
「原因はあいつか?」
「や。顔はよく見てないし! 同姓同名なだけかもしれないし! だいたい私は眼鏡をかけてたし、違うかもしれない!」
「何がだよ」
「…………」
はい。
疑問はごもっとも。
答えてないね、私。
「とりあえず飯食いに行くか。今日は平日だからたいして混んでねぇだろ」
……なんて、言えばいいかなぁ。
「……うん」
「うちの近くにするか?」
「うん……」
「じゃ、デリバリーして、うちで食うか」
「うん……」
「華子……」
「ん?」
「いい加減にしねぇと、また泣くまで攻めるぞ」
不機嫌そうな顔に、我に返った。
「ごごごごめんなさい。ちゃんと聞いてる、聞いてるんだけど……っ」
「聞いてるのは解るんだけどな。どうしたお前」
とっても不思議そうな顔をするから、困る。
「うん。あの……もしかしたら、同級生かもしれない」
磯村さんは眉を潜め、それからまた歩き始めた。
「んじゃ、家でデリバリー決定な。落ち着いた方がよさそうだ」
「あ、えーと。じゃ。私が……」
「作ったらいつもと変わんねぇだろ」
はい。ごもっとも。
「ラーメン食いたい、ラーメン」
「出前……取ったことがない」
「受け渡しは俺がやればいいだろうが」
「綺麗なお店かなぁ?」
「……虫がいたりしてな」
む、虫が!?
「絶対嫌!」
「冗談に決まってんだろうが。馬鹿かお前」
ニヤニヤ笑われて、睨み付ける。
「冗談でも言わないで! 今後お店でも食べられなくなるから!」
「お前もつくづく大変な?」
「解っていて、言う方もどうかと思うのね?」
「ま、とりあえずどっちの部屋にするかだな。俺のうちに泊まるか?」
「うん」
「…………」
立ち止まった磯村さんを振り返り、首を傾げた。
「おかしなこと言った?」
「まぁ……華子にしてはおかしな事を言ったな」
「一緒にいたいと思ったの」
綾瀬さんの名字を聞いて……それを懐かしく感じて。
思い出も一緒に思い出して。
一番初めに思ったのが、磯村さんと一緒にいたいなって事で。
「そうか……まぁ、なんだ」
「うん」
「抱いてもいいのか?」
そ、それは答えにくいから。