強引男子にご用心!
「磯村まで手作り弁当ですか」
葛西さんが磯村さんに渡したお弁当と、自分のコンビニサンドイッチを見比べる。
だって、催促されたんだもの。
……催促、と言うよりは、脅された様な気もするけれど。
まぁ、そんなところが磯村さんよね。
別に脅さなくったって、言ってくれれば作るし。
たぶん。
「ねぇ、磯村さん」
「ん?」
「素直な私ってどう思う?」
「取り扱いに注意する」
「………」
どういう意味よ!
しかも即答だったよね!
素直になってみたら“取り扱いに注意”されるって、どういうこと!?
「怒るなよ。だいたい華子が素直な時ってどう取り扱えばいいか迷うし、素直ってぇか上の空の時の方が多いじゃねぇか」
そうかもしれないけど。
「ツンケンしてても気にならねぇから気にすんな」
「そう?」
「そうそう。無理されても、お互いしんどいしな」
「磯村さんて、やっぱり年上ね」
おとなって言うか。
何て言うか……
だけど、磯村さんは玉子焼きを食べながら、眉をしかめた。
「……若さ証明してやるか?」
「はい?」
「俺は毎日でも大丈夫だぞ?」
「……え?」
「ちょっと磯村さん? 部外者二人いるの解ってるの?」
振り返ると水瀬は怒ったような顔をしているし、葛西さんはサンドイッチを持ったまま固まっている。
えー……と。
会話がおかしかったのかな。
考えていたら、磯村さんにニヤニヤ笑っている。
「あまり突き詰めて考えると、照れるだろうからやめとけ」
照れる? 今の会話の流れで……
若さを証明するために、毎日でも大丈夫……
「磯村さん。セクハラオヤジまっしぐらじゃないですか」
水瀬が溜め息混じりに呟いて、磯村さんが小さく笑う。
「華子にしか言わねぇよ」
私に……
「な、なんて事を真っ昼間から……!」
「おー。やっと思い付いたか。この手の冗談には、反応が一瞬出遅れるよなぁ」
「いつもより遠回しだったからよ!」
「いつももっとハッキリとセクハラされているの? 華子」
水瀬に言われて、顔を赤らめた。
「言われてません!」
「墓穴掘るからやめとけ」
「磯村さんが変なことを言うから悪いんです!」
「お前が人のこと年食ってるみたいに言うからだろ」
「違います! 大人だなって思っただけです」
「お前だって大人だろうが」
……大人だけど。
年齢だけ大人だとは思うけれど。
年だけとった気分。
やってることなんて、10代の頃と変わらないし、相変わらず潔癖症だし。
千里さんから逃げたし。
「なぁ、水瀬さん」
磯村さんが珍しく水瀬を名前で呼んだから、驚いて顔を上げる。
「綾瀬晃司って名前、知ってるか?」
「知ってるも何も……」
名前だけ知っている葛西さんが首を傾げ、色々と知っている水瀬は眉をつり上げた。