強引男子にご用心!
「綾瀬晃司さんが何?」
磯村さんはベッドの上で足を組み換え、警戒したよなうな水瀬を見ながら顔をしかめる。
ど、どうしていきなり水瀬に聞くのかな。
「ふーん? そっか」
「だから、何故? その人がどうかした?」
「どうかしたって言うか。企画部に中途採用で入ってきたよな」
途端に水瀬が嫌な顔をする。
「磯村さん。少しずるいわ。人の反応見たでしょう、今」
「さわり程度なら華子にも話を聞いた」
言った!
ちゃんと言った!
「聞いたのに、ワザワザ私に聞くわけ?」
「こいつポーカーフェイスだったし。比べると女医さんの方が解りやすかったな」
「あー、もう。磯村さんは不意打ち名人だって華子から聞いてたのに」
不意打ち名人とは言っていないけど、まぁ、似たようなものよね。
「とりあえず、何となく解った。後はこいつと話すから気にするな」
そうねぇ。
確かに詳しくは話さなかったかもね。
話さなかったから、水瀬にかまをかけたの?
何も突き詰める事ないじゃない。
昔の話だから気にするなって言ったくせに。
気にするなって言った本人が気にしてるんじゃない。
軽く睨むと睨み返された。
「そりゃーお前、あんなに挙動不審になられたら、気になるだろうが」
「ちゃんと、高校の時に付き合っていた人だったって言ったもの」
「……トラウマの原因とは聞いてねぇ。けど、そういうことだな?」
「トラウマとは言ってない」
「似たようなもんだろうが。それでどれだけ苦労したと思ってる」
「……知らない」
「昔の男に慌ててんじゃねぇよ」
「あ、慌てたわけじゃないもの! ただ……」
会いたくなかっただけだもの。
「何。今でも好きだのなんだの言うつもりか?」
「違うもの! そんなんじゃなくて、うまく言えないけれど……」
うまくは言えないけど……
うまく言う必要があるのか?
見かねたらしい、水瀬が立ち上がって、大きく手を叩いた。
「そういうのは二人でやって。しかも、華子の事を考えるなら、もう少し考えさせてあげて」
「……時間かかるだろうなぁ」
磯村さんが溜め息混じりに苦笑して、私の頭をぐしゃぐしゃにする。
「……呆れる?」
「いや? イライラはするかもしれねぇけど、仕方ないんだろうな」
「……自分のなかで、なんて説明していいか、まだ解らなくて」
「そういうところだけ素直になられっと、本当に取り扱い注意するよなぁ」
「うん。ごめん」
「……いや。謝ることじゃねぇだろ」
謝ることだと思うな。
だって、今、付き合っているのは私たちなんだし。
でも、待ってくれるのは嬉しいかも。
私は、どちらかと言うとすぐに答えは出ない人間みたいだし。
……本当に私って面倒な女だ。