強引男子にご用心!
「そうだろうな。そうなるだろうな」
「そのうち、ちょっと……触れないのはどうしてだって、言われるようになって……」
磯村さんが難しい顔をして、それに苦笑を返すとビールを開けた。
ひんやりとする缶に触れながら、どう話そうか考える。
考えて……そうだな。
「結果としては、綾瀬くんに新しく好きな人ができて別れちゃった感じ?」
「浮気されたのか」
「え……」
「綾瀬に好きな奴ができたから……別れたんだろ?」
頷きながらビールを飲む磯村さん。
思わず首を傾げる、
「そうなるの……かな?」
「なるだろ。付き合ってる最中に他の女を好きになるってことは」
「それは思い付かなかったわ」
呟くと無言になって、静かな視線だけが返ってきた。
「あ……えっと、仕方ないかな、とか思ってた」
「なんで」
「え。なんでって、ほら、私は全然触れないし」
「それは理由にならねぇ。そもそも話聞いてた限りじゃ、綾瀬もお前の潔癖症知ってたんだろ」
「そう、なんだけれど」
でも、でもさ?
「磯村さんだって言ってたじゃないの。好きな相手に触れないのはきついって!」
目を細め大きな溜め息をつかれる。
「だからって、他の女を好きになる理由にはなんねぇよ。はなっから知ってて付き合って、どうして触れないんだとか抜かすバカもバカだが」
ビールを煽るように飲むと、空になった缶をテーブルに置いて、思いきり睨まれた。
「そんなんで引っ込むお前もバカだ」
「ひ……ひっこむわよ。自分で告白したくせに、いざ恋人らしいことしようとすると逃げるしかできなくて、ごめんなさいって思うの当然でしょ!」
「そんなもんは潔癖なんだから仕方がねぇ事だろうが。それ前提に付き合い始めたんなら、それは絶対に理由にはならねぇ」
「なるわよ!」
「ならねぇ」
「なるのよ! 私と付き合っていると、自分が汚いもののように感じるって言われたわ! そんなつもりはなくても、私は逃げるから、悪いことしている気分になるとも言われたし!」
しかも、
「付き合うなら、こんな異常な女じゃなくて、普通の女がいいって!」
立ち上がって叫ぶと、何故か磯村さんはニヤッと笑った。