強引男子にご用心!

「私、潔癖症で虐められていた頃があって」

唐突に話始めた私に磯村さんが微かに目を丸くして、だけれど黙って頷いてくれた。

そんな姿を見て小さく笑うと、クッションを抱き込んで座り直す。


今にして思えば、子供の頃は自分達とは違う異質なものに敏感で、単に面白がっていただけなのかもしれないんだけど。

机に雑巾が入っていたり、土が入っていたり。

トイレのはなこさんは、トイレにいるものだからと、学校のトイレに閉じ込められたり。

他人に触れないのに、鬼ごっこの鬼をやらされ、とりあえず途方にくれたり。

消ゴム貸してね、なんて持っていかれることもかなりあったし、返してもらってもどうしようもなかった事が多かった。

机の中に土や雑巾があれば、怖くて近づけもしなくて先生に怒られて。

学校のトイレは生徒が掃除していたから、一見きれいでも衛生的には感じなかったし……

長い時間を学校で過ごす子供に取っては、ある意味で死活問題で、当たり障りなく接してくれていた水瀬だけが、唯一の友達。

話しかけられても、何かされるかもしれないから逃げ回る。

ある意味付き合いづらい子供だったと思う。

高校生にもなれば、表立って何かしてくる人はいなかったけれど……

潔癖症を知っている人もいたし、面倒に巻き込まれないように過ごしていたし、相手からも嫌煙されるのが当たり前で、


「そんな中で、普通にしてくれたのが綾瀬くんだったのね」

朝の挨拶から始まって。

いい人だなぁ。

……なんて思って。

いつの間にか“好き”だなって思うようになって。


好きな人なら、触れるようになれるかも知れない……

そんな風に考えて、告白して。

付き合うようになった。


初めてのデートはカラオケだった。
けど、マイクも触れず、座ることもできず、2時間立ったまま綾瀬くんの歌を聞いてた。

つぎのデートはファミレスだった。
混みすぎて、出されたお水のコップにくっきり汚れを見つけて、綾瀬くんが食べているのをただ眺めていた。

つぎのデートは遊園地だった。
もちろん何も乗れずに、ただ遊園地内を歩き回った。


「悪い。何だか綾瀬が可哀想に思えてきた」

「……そうね。そうなのよ」

私だってそう思うのよ。

自分から告白しておきながら、ひどいことしてるなって。

綾瀬くんも、苦笑するしかなくて、潔癖症なら仕方がないって言ってくれていて。

だから、頑張って手を繋げるようになって……

「手を繋げられるようには、なったんだけど……」

「おー……」

キスされそうになると逃げ出して、抱きしめられそうになると鞄でひっぱたいて、そのうちギクシャクし始めて。
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