強引男子にご用心!
華子さんと磯村さん
「先輩~。ネームプレート間に合わなかった場合、どうすれば良いんでしたか~?」
困り果てた千里さんの声、その奥には所在無さそうな綾瀬さんの姿。
「…………」
近づきたくないな。
「とりあえず手書きでネームプレート作っておく。間に合わないのは当たり前だから」
「え。手書きって。ボール紙とかにですか?」
どこの幼稚園のお遊戯会だ。
心の中で突っ込むと、牧くんが吹き出して、プラスチックのネームタグを引き出しから取り出した。
「少し待っていてもらえますか?」
「あ、はい。すみません」
牧くんナイス。
あれかなぁ。千里さん育てるより、牧くん育てた方がいいのかなぁ。
考えていたら、
「先輩。こちらの記入方法がぁ……」
半泣き千里さんの顔を見ながら、眉をしかめる。
あー、もう。
しょうがないなぁ。
つかつか近づいていって、指し棒つきボールペンを取り出して伸ばす。
「どこ?」
「あ。見えますか?」
だって、二人とも密着するかの如く書類眺めていて、私は覗き込めないわよ。
「あ、えと。ここですぅ……」
と、指差して千里さんがよけてくれたから、書類を見つめて苦笑する。
「ああ。そこは無記名でOK。綾瀬さん」
顔を上げて微笑むと、千里さんがビックリしたような顔をして、綾瀬さんは不思議そうに首を傾げる。
「はい」
「入社おめでとうございます」
「え。ありがとう、ございます。伊原さん……でしたか」
「はい」
不思議そうな綾瀬さんは、私の顔をまじまじと見て、それからギョッとしたように一歩下がった。
あ。これは気づいたかな。
まぁ、いいか。
書類を引き取ると、指し棒をひっこめて胸ポケットにしまい、今度はシャープペンシルを取り出して必須箇所に丸をする。
「後はここに記入して頂いて。年金手帳の番号は忘れずに」
「はぁい。頑張りますぅ」
「語尾は伸ばさない」
「はい」
それからデスクに戻ると、
「伊原さん。内線4番に磯村さんから……」
「え。また名指しなの?」
「いえ。磯村さんだったから、伊原さんに回した方がいいかと……」
「…………」
何だか余計な気をまわしたらしい後輩を睨み付け、立ったまま内線を受ける。
「代わりました。伊原です」
『あ、ああ。伊原さん? なんか、名乗ったらいきなり代わられたんだが』
戸惑い気味の磯村さんに苦笑して、首を竦めている後輩をちらっと見る。
「磯村さんの教育の賜物じゃないですか? このままいくと、磯村さんの内線は全部私に回ってきそう」
『……まぁ。すまん』
「いえ。それで用件は?」
『ああ。一台複合機が駄目になった。再起動してみたけど、まったく動かない』
「……すぐ見に行きます」
『よろしく』
内線を切って、業者リストと営業部に置いてあった複合機の取説を探していたら、後ろから牧くんに声をかけられた。
「営業部の複合機って、確か会議室と同じ会社からのリースでしたよね」
「その通り。よく知ってるわね」
「つい最近、管理表作り直したばかりなんで。見るとあの業者の機材、少しトラブル多めなんですが」
「私じゃなくて、主任か課長に話を持っていって」
「え。僕がですか?」
「そう。新しい業者でも見つけられていればもっと完璧。ちょっと席を外すわね」
取説を持って総務部を出ると、後ろから声をかけられた。