偶々、
その想いが通じ合っている間は大丈夫。何も心配いらないし、きっと田中さんのお母さんも安心していられると思った。

彼の気持ちが変わらなければ…。


そっと田中さんの横顔を盗み見ると、表情はなく何かを考えているようだった。あまりに真剣に見据えていたから、後に続ける言葉が見つからない。


お互いそのまましばらく押し黙っていた。


そんなタイミングで、外からわたしたちが乗る予定の列車がまもなく到着するというアナウンスが流れる。


ホームの時計は20時58分、長針は21時を目指して刻んでいく。

いつの間にかホームには停車していた新幹線はいなくなっていて、代わりに人の列が出来ていた。


「気づかなかった、行こうか」

気づいてなかったのはわたしだけではなかったようで田中さんはそう言って、足元に置き放した荷物を取り上げる。
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