偶々、
それを見てわたしも同じ動作で鞄を掴み後を追う。


「あんなに待ってたのに、気づかなかった。寒っー」

待合室を出ると、冷たい夜風が身体に染み込んできて身震いをする。待合室だって外みたいなものなのに、受ける体感温度は全く違った。


「せっかく楽しかったのに、これが現実ってやつかも」

最初に声をかけられた時と同じように、鼻を赤くした田中さんの呟きは聞こえなかったことにした。


本当に楽しかったから、一気に現実に戻されたみたいでもうすぐ到着する車両に乗り込むのを惜しんでいる自分がいる。


偶々出会ったばかりの人なのに、もっと話しをしていたいと、もっと、知りたいと。

それも寒さのせいだったのかもしれない。
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