偶々、
何度も訪れた16番ホーム。妙な緊張感に包まれて、踏み出す足が震える。どれもこれも寒さのせいにしたいくらい。

人が並ぶ列は一本の線を描いていて、わたしちちは静かにその後ろへと待ち構える。


「ブランド品てどう思う?」

ボソッと呟きにも似た問いかけに田中さんの顔を見ると、彼はわたしの手の先にあるバッグに目線を落としていた。


「ブランド?」

じっと見られているわたしのバッグは特別なものではなくて、どこにでもあるような革製品。


若い頃は憧れがあったかもしれない。でも今は少し落ち着きたいのが本音だった。

それを告げるとどこかほっとしたような表情をして見せ、「俺も同じ」。と、聞こえるか聞こえないかくらいの声を出す。


ブランドが何の意味をもたらしているのかわからないまま。
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