偶々、
『クリアでしょ?』

遠くから田中さんの声が聞こえてきて、夢なのに涙が込み上げてくる。


クリアなんかじゃない。

そんなの、わからない。


だって人の想いは変わっていくから。


『羨ましいな』

ちっとも羨ましいことなんて、ない。


『クリアでしょ?』


何度も木霊する、何度も何度も。『クリアでしょ?』と、頭の中で繰り返す。


はっとして、目を開ける。ぼやけた視界が夢だったことを知らせてくれた。

瞳から溢れ落ちた雫に、鞄からハンカチを取り出してそっと顔を隠す。


顔がどうなっているのか気になり、お手洗いへと席を立つ。揺れる車体に逆らってふらふらと覚束ない足取りで田中さんが座る座席の横を通り過ぎる。

肘当てに腕を乗せ、頬杖付いて眠っているのが見えた。

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