素顔のマリィ

安西さんから話を聞いた後も、わたしは半信半疑のまま要との関係を続けていた。

彼女の話が全部本当だったとしても、それが何だというのだろう。

要が流加とわたしの関係をしりながら、彼の居場所を隠していたこと。

流加がわたしを『マリィ』と呼ぶのを知っていて、敢えて同じ呼び名でわたしを呼ぶこと。

流加の居場所がわかったところで、わたしにはどうしようもないのだし。

実際『マリィ』と呼ばれて、心を揺さぶられたのはわたしの方なのだ。


「坂井くん、そろそろ会議の準備、始めて貰えるかな」

森課長にそう言われて、わたしは我に返った。

もう10時15分前だった。

「あ、はい、直ぐに」

わたしは慌てて立ち上がった。

今日は中澤さんがお休みなので、10時からの課内会議の準備をしなくてはならなかったのだ。

今朝、課長に渡された資料を課員分コピーして、会議室のテーブルを移動して、お茶を入れて。

わたしはコピー機に原稿をセットして、電気ポットに水を入れ、茶碗をお盆にセットして会議室へと向かった。

頭は流加で一杯だった。


自分で考えるよりずっと、わたしは動揺していた。

流加の存在と、要の嘘に。

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