素顔のマリィ

流加とわたしは、抱き合うことすらしなかったけど。

見つめ合うことで満たされていた。

共有する時間が全ての始まりで終わりだと、どうしてあの時気付かなかったのか。

残された時間が残り少ないとわかっていたなら、わたしは勇気を振り絞って流加に触れたのに。


抱き合って、抱きしめ合って、キスして……

そしてきっとひとつになった。


あの時のわたしは、流加に再会できた喜びで一杯で、再び彼を失うなんて微塵も考えていなかったのだ。


ねぇ、君は知っていたのですか?

限りある時間のあることを。

ねぇ、君は全てを知った上で、わたしに触れなかったのですか?


目を閉じれば思い出す、彼の息遣いも。

「マリィ」と呼ぶ、優しい声も。

どれも別れの予兆すら感じさせない自然なものだったから。

わたしはすっかり油断していた。
< 54 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop