素顔のマリィ

「わたしなりに、ここ数年の『美術手帳』の売上げと、その号で取り上げた特集の相関図を作ってみました」

わたしは、手作業で作り上げた自前のグラフと、その下に主な特集のタイトルを<アニメ><建築><絵画>の大きなくくりで指し示した相関図を広げて見せた。

「この突出した号の特集はいずれも<アニメ>関連です。

このグラフが示すように、図書館蔵書分はほとんど変わりはありませんが、書店売上げが急増してます」

「つまり?」

「特集次第で、売上げ回復は見込めるかもしれない、ということです。

この大きな山と山の間を、もう少し底上げ出来るように努力すれば、継続的に購買層を増やすことができるかも……」

「ん? どうしたね、坂井くん」

「いえ、これはあくまで素人考えの推測に過ぎないので。

わたしとしては、廃刊が決まっている雑誌の売上げ云々に口を挟むのは如何なものかと」

「誰が廃刊決定と言ったのかな?」

「えっ、それは常務が面接の時に」

「わたしは『廃刊となる予定でいる』と言ったまでだよ。

廃刊が決定したわけじゃない」

「えっ、そうなんですか?」

わたしはきっと、もの凄く嬉しそうな顔をしていたに違いない。

「この販促課を設けたのも、山下さんをここに迎えたのも、『美術手帳』の今後を模索するためだ」

「いやいや、常務、わたしみたいなおいぼれの意見など、時代に取り残されるのが落ちですよ」

「山下さん……」

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