マイ リトル イエロー [完]
* * *
「菜の花畑……? え、それって国内だよな……?」
初めての結婚記念日に備えて、雑誌が入った重たそうな紙袋を持って帰ってきた聡真さんは、私の一言に動揺を隠しきれてなかった。
「もちろんだよー」
「ちょっと待て、見ろよ俺のこの海外旅行の雑誌の数々……今日8冊も買ってきたのにまじか花菜おい……」
聡真さんと付き合うことになったのは、本当に自然な流れだった。結婚までの流れも、お互いがなんとなく空気を読み取って、と言う形だった。
食堂でしか会えないはずだった聡真さんと、偶然仕事帰りに駅で遭遇し、そのまま飲みに誘われ、連絡先を交換して、何度かデートを重ねるうちに付き合うことになった。
もともと聡真さんに対して好感しか持ち合わせていなかった私は、彼を好きになるのに全く時間はかからなかった。
後から彼に聞いた話によると、飲みに誘ったのはもじゃもじゃSEに取られないか少し焦っていたから、らしい(婚約したことを後に日野さんに言うと、彼はかなりショックを受けている様子だった)。
「はー、まじかー、国内希望するのは読めなかった……」
「もうご飯にする?」
「うん、今日は腹減ってるから飯先が良い」
「はーい」
真剣に落ち込んでいる彼の元へ作った料理を運んだ。結婚記念日はまだ3カ月先だと言うのに……完璧主義な彼は完璧に計画を立てたかったのだろう。
今日のメニューは、きのこご飯、鰤の照り焼きしし唐添え、ほたてと大根の和風サラダ、はりはり漬け、じゃがいものお味噌汁だ。
そんなに派手なメニューじゃないけど、聡真さんは私の料理を本当に美味しそうに食べてくれる。
目の前に並べられた料理を見て、既に美味しい、とまだ食べていないのに感想を述べた彼に、炊き立てのご飯を出した。
彼は綺麗に両手を合わせて、いただきます、と言って鰤の照り焼きを口に運んだ。
「美味い」
一口目を食べてすぐに彼がその三文字を噛み締めるように呟いた。
「聡真さん和食苦手かと思ってた。外食するときフレンチばっかだし」
「そんなことない。花菜の料理は全部美味い」