僕と三課と冷徹な天使

コオの家1

手作りの角煮とおでんを持って
僕はコオさんの家に向かっていた。

グーグルマップが僕を案内してくれる。

目的地はどんどん近づいてきて
緊張は高まっていく。

どうしてこんなことになったんだっけ?

冷静を取り戻すため、思い出してみる。

それは、いつものランチタイムだった。

「角煮なんてすぐできますけど、
 どうします?」

給湯室の冷蔵庫に入れておけばいいから
会社に持ってきてもいいかも、と思って、
軽い気持ちで僕は言った。

「じゃあ、土曜うちにきて。忙しい?」

動揺を隠すために、僕は窓の外を見た。

逆に挙動不審になった気がする。

「・・・いえ、ヒマです」

冷静を装って答えたが、コオさんと
目を合わせられない。

「じゃあ、ビールのお供にしたいから
 夕方きてね。
 あ、ビール飲んでもいい?」

コオさんは
泥酔したばかりの僕を
気遣ってくれたのだろう。

でも僕はそれどころではない。

「あ・・・全然大丈夫です。
 僕はまだやめておきますけど」

ランチの
さばの味噌煮を見つめながら答える。

「わかった。
 じゃあがんばって午前中掃除するわ。
 ・・・それでも汚かったらごめんね」

こんな会話をしたことがないから
ドキドキして心臓が限界だった。

「はい、大丈夫です・・・
 何だったら掃除手伝いますので」

やっぱりさばの味噌煮に答える僕。

「ありがとう」

ちらりと見えるコオさんの笑顔。

・・・思い出して、余計に緊張してきた。

コオさんの家はもう目の前だ。

意を決してベルを鳴らす。

「はーい。ちゃんと来れたね。よかった」

「はい、全然大丈夫です・・・」

玄関を開けてもらって絶句した。

靴がいっぱい・・・

「あー、靴置くところないね。適当につめて置いて」

もしかして僕一人が呼ばれたんじゃないのかな。

角煮もおでんも二人分しか無いけど・・・

無理やり靴を脱いで、ふと見ると
壁にそってダンボールや荷物が
たくさん積んであった。

「片付けてたんだけど、無理だったわ~。
 まあ、何とかソファのまわりは片付けたから
 大丈夫でしょ」

特に気にしていない様子のコオさん。

僕も続いて部屋に入るが、
誰もいない。

かわりに服の山、マンガの山、CDの山・・・

・・・もしかして、これって汚部屋?

「灰田、引いてる?」

ソファに座ったコオさんが聞く。

やっぱり読心術の使い手に違いない。

「・・・いや、大丈夫です。」

予想外の展開だったが、
これくらいでへこたれてはいけない。

初めて訪れた女の子の家なんだから。

カバンを何とかそこらへんに置いて

「じゃあ角煮とおでん温めますね」

と僕は言った。

「あ、キッチンはあまり使ってないから
 大丈夫だと思うんだけど
 なんかあったら言って~」

と言いながらコオさんは
マンガを読み始めた。

自分の家なのに丸投げしちゃうんだ。

さすがコオさん。

電子レンジを操作しながら
緊張する必要なかったかもなあ、と思う。

「コオさん、できました。
 ビールは冷蔵庫ですか?」

と言って冷蔵庫を開ける。

ちゃんとグラスも冷やしてある。

こういうところはしっかりしていて
コオさんらしい。

「ありがとう。いただきまーす」

やっぱり美味しそうに食べてくれる。

この部屋にいるのは落ち着かないけど、
来て良かった。
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