僕と三課と冷徹な天使

資料

坂崎さんが三課に来たとき
挨拶をするのは僕だけになってしまった。

「お疲れ様です」

と今日も僕の声だけが響く。

みんな坂崎さんが来ることに
すっかり慣れたようだ。

坂崎さんは

「お疲れ様。
 今日は17番から5冊ほしいんだ」

と微笑みながら僕に言った。

「はい」

と言って僕は資料室に向かう。

広報の資料は棚の高いところにあるので
脚立を使って資料を取る。

最初はおっかなびっくりだったが
今では慣れた。

とび職に転職できる気がするほど
さくっとのぼり、さくっと降りる。

ただ、今日は5冊、という
リクエストなので
脚立の上から坂崎さんに声をかけ、
資料を手渡す。

僕は2冊を抱えたまま脚立から降りて

「広報まで運びましょうか?」

と坂崎さんに言った。

「あ、助かる。お願いします」

すでに3冊持って重そうな坂崎さんは
うれしそうに言った。

僕は2冊を何とか片手で持ち、
三課のドアを開けて廊下に出た。

坂崎さんと並んで広報部へ向かう。

ちょっとそわそわする。

「いやあ、本当に助かるよ。
 この資料意外と重いんだよね。
 なのに何冊も必要でさ」

と坂崎さんが言う。

「他に手伝ってくれる人はいないんですか?」

いつも資料を取りに来るのは坂崎さんで
返しに来るのも坂崎さんだ。

実は大変そうだなあと思っていた。

「うん。再来年のものだから、
 まだ人員を割けなくて。
 今年は一人で進めていくしかないんだ」

坂崎さんは資料を持つ手をかえながら言った。

そうなんだ・・・

手伝ってあげたいけど、
コオさんに断りなく簡単に言えないなあ・・・

「でも記念誌にたずさわれるなんて
 すごく光栄なことだから、
 文句は言ってられないよ」
 
さわやかに坂崎さんは言う。

もしかして、この人・・・

とてもいい人なんじゃ?

僕だったら一人で仕事なんて
不安でとてもできない。

泣き言を言ってしまうだろう。

文句も言うかもしれない。

なのに坂崎さんは一人でも文句を言わず
むしろ光栄だなんて・・・

社員の鑑だなあ・・・

さすが、コオさんの元彼・・・

ちょっと惚れてしまいそうだった。

「できることがあったら言ってください。
 コオさんに相談して、できるだけ手伝います」

僕はさわやかに
力になりたい旨を伝えた。

「ありがとう」

坂崎さんはさらに爽やかに言った。
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