僕と三課と冷徹な天使

必死

コオさんは黙ってモツ鍋を食べている。

いつもならおいしいとか、
幸せ、とか言うのに何も言わない。

「あの、味、いまいちでした?」

いや、たくさん食べているから
多分美味しいんだけど、
会話がしたくて聞いてみる。

「おいいしいよ」

不機嫌そうに言うコオさん。

聞かなきゃ良かった。

「灰田もビール飲みなさい。
 この前部長と飲んだんでしょ」

全然飲みたくないけど
今はそんなこと言えない。

「はい」

仕方なくビールを開ける僕。

コオさんはヤケになっているかのように
飲んで食べる。

僕は食が進まない。

「灰田。何か言え」

コオさんの無茶ぶり。

何か言えって・・・

とりあえず、謝るか・・・

「坂崎さんを勝手に家に上げて、
 すみませんでした」

ふふふっとコオさんは笑った。

え、なんで?

思わず見ると目がすわっている気がする。

「反省してる?」

「はい。本当にすみませんでした」

「・・・じゃ、キスして」

え、何その呪文?

コオさんは僕の隣に座って
顔を近づけてくる。

どうやら、僕が受け取った意味で
間違いはないらしい。

「はやく」

コオさんが更なる呪文を唱えた。

意を決して
コオさんの顔に近づくと
コオさんは目を伏せる。

自分の唇をコオさんの唇に軽くつけて
すぐに僕は離れた。

心臓が今にも止まりそうに激しく動いている。

「もっとちゃんと」

耳を疑ってコオさんを見ると
僕をにらんでいる。

基本的に、
コオさんが言うことは絶対服従の僕。

今も従っておいたほうがいい気がする。

再び顔を近づけると

「五秒静止」

とコオさんが言った。

え、と思いながらも
唇をつけて、五秒静止。

1・2・3・4・5・・・

心の中で数えて離れる。

息ができなかったせいなのか
なんだかよくわからないが、苦しい。

心臓の動きは相変わらずおかしい。

「ゆるす」

と言ってコオさんは離れて、
またビールを飲んだ。

テレビをつけてお笑いを見始める。

コオさんはたまに楽しそうに笑っているが
全然笑えない僕だった。
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