僕と三課と冷徹な天使

晩ご飯

昨日の部長との打合せの内容を
コオさんに引継ごうとすると、

「それ、みんなに灰田から言って」

とさらっと言われた。

えー・・・

皆さんも困ると思いますけど・・・

コオさんはしれっと自分の仕事に
戻ってしまっている。

ここで泣きついてみても、
いいからやってみな、と
言われるに決まっている。

仕方が無いので、
進捗確認がてら、一人ずつ
今後の仕事の話をさせてもらった。

僕ですみません、と思いながらだったが
意外とみんな普通に聞いてくれる。

あれ、もしかして、僕、
リーダー的な仕事できるのかも。

三課限定だけど。

ちょっと浮かれていると
コオさんが声をかけてきた。

「大丈夫だったでしょ」

ニヤリと笑う。

敵わないなあと思う僕。

「手がまわらない分の仕事
 フォローするから言って」

さすがコオさん、
よく気がついてくれる。

ちゃんと自分の仕事もしないと、
と焦る気持ちもあったので
すごくありがたい。

単純な僕は、コオさんに改めて
尊敬の念を抱きつつ
仕事を振り分けさせてもらう。

結果、コオさんの仕事と僕の仕事が
入れ替わったようになった。

でも僕の仕事は
コオさんがフォローしてくれるから
それほど大変ではない。

コオさんは仕事の負荷が減って
機嫌のいい日が増えたように思う。

笑顔のコオさんを見るたびに
また僕は仕事をがんばれるのだった。


残業時間もずいぶん減って

「そろそろ帰ろうかな」

とコオさんが先に言うことが多くなった。

「じゃ、僕も帰ります」

僕はこのタイミングを逃さないように
いつも注意をしている。

だから
コオさんが帰りたくなった時に
一緒に帰れるよう
残業は急ピッチで進めている。

そして頑張った甲斐があって
一緒に今日も帰れるのだ。

・・・うれしい。

本当にがんばってよかった・・・

幸せをかみしめながら
コオさんと一緒に
駅に向かっていると、

「灰田は、いつも晩御飯どうしてるの?」

とコオさんが上目遣いで聞いた。

うう、可愛い・・・

心を鷲づかみにされながら
僕は答える。

「冷蔵庫に残っているおかずを食べたりとか
 野菜炒めとかチャーハンを作りますねえ」

「へー・・・
 それ私も食べたい」

コオさんがポツリと言った。

その言葉は
僕には剛速球のようだった。

「はい。わかりました」

しっかりキャッチしなければならない。

姿勢を正して答える僕。

「今日はどうするつもりだった?」

「えっと今日は残っている野菜を使って
 うどんでも作ろうかと思っておりました」

動揺のせいか、変な言葉になるが
コオさんは気にしない。

「うどん!食べたい!」

きらきらした瞳で僕を見るコオさん。

う、うれしい。

で、でも・・・

「あの、僕の家ちょっとちらかってるんで・・・」

ちょっと見せたくないものがあります・・・

「ああ、アニメ関係の?
 別に私は大丈夫だけど、
 灰田が気になるなら
 コンビニで立ち読みでもしてる」

にっこり笑ってコオさんは言う。

コオさんには何もかもお見通しだ・・・

隠しても仕方ないな。

「コオさんが大丈夫ならいいです」

かなり恥ずかしいが、
泥酔してすでに見られているものばかりだ。

もういいや・・・

それより今日はコオさんと
家でご飯が食べられるんだ・・・

にやにやしてしまう顔を
コオさんに見られないように僕は歩いた。
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