砂糖漬け紳士の食べ方


「…へえ、今はそういうのまであるんだね…」


調べようともしなかったな、と彼はチラシを手に取る。ただし体はだらしないままで。


アキはサービスの簡単な概要を説明した。

このマンションに業者が直接作品を引き取りに来ること。
作品の梱包、搬送、会場への搬入作業の全てを業者に頼めること。

しかし搬送料金を説明するまでもなく、伊達は「じゃあそれで」とあくびを噛み殺しながら簡単に決断する。



確かにこのサービスはとても便利だ。

特に締め切りギリギリまで制作をしているような人にとっては…。



「分かりました。じゃあ伊達さんはお休みになって下さい。私の方で手続きをしておきます。
何か引き継ぎがあったら、メモに書いて残しますので」


彼女の気遣いにようやっと重苦しい体を起こし、伊達はいよいよ大あくびをしながら背伸びをした。

限界が近いようだ。



「…鍵はオートロックだからそのまま出てってもらって構わないから…」

「はい」

「じゃ、あとはよろしく」



ふにゃふにゃした口調でそう言い残し、伊達は寝室へと入って行った。

いつの間にか午後2時を過ぎている。




アキはその後、宅配業者に連絡をし、配送の手続きを済ませた。

公募展の作品搬入締め切りは、午後2時。
業者が営業を開始すると同時、いの一番に宅配を頼んだ。

このマンションから展覧会会場までは車で約40分の距離。これなら充分に間に合う。



伊達に言いつけたとおり、宅配業者からの見積もりや搬送の時間帯などをメモにまとめる。


何かあればと思い、アキの私有携帯電話の番号まで最後に添えた。

ここまで書けば、多少のトラブルがあっても大丈夫だろう。



アキは二つのグラスを片づけ、静かに静かにマンションを出た。




外は、清々するほど鮮やかな夕暮れだった。

冷たい空気も、呼吸をするだけで肺に心地いい。




展覧会が終われば、記事をまとめられる。やっと今までの集大成を世の中に出せるんだ。


ただ歩いているだけなのに、足に馴染んだ低いヒールのパンプスはタップダンスのように軽やかに響いた。


< 83 / 121 >

この作品をシェア

pagetop