この恋、永遠に。

彼女の正体

 一旦自宅マンションに戻った俺は着替えるため、シャワールームに向かった。
 左手には俺には可愛すぎるファンシーな絆創膏が貼られている。俺はそれを見てくすりと笑った。

 昨夜、美緒を抱いた後、彼女が絆創膏を貼ってくれた。
 そこには、手の甲にあった爪痕の他にも、新しい傷が増えている。壁の薄い部屋で漏れる声を必死に押し殺す彼女のために、声が出そうなときは俺の指を噛むように、と俺が彼女に言い聞かせたのだ。

 俺の左手に増えた傷を見た彼女が、こんなのしかなくて、と差し出してくれたのは、ピンクの水玉模様の絆創膏だった。ちゃんと後で普通の絆創膏に貼り替えてくださいね、と念を押していた彼女が可愛らしい。

 俺は彼女に惚れている。どうしようもなく。彼女をとことん甘やかしたくなってしまうのだ。
 昨夜触れた彼女の柔らかい肌の感触を思い出す。堪えきれずに漏れる声も、吐息も、快感に歪む顔も、何もかもが俺を煽った。
 優しくしてやりたいと思う反面、めちゃくちゃに泣かせてしまいたいという欲求もあり、それを抑えつけるのが大変だった。

 彼女は初めてだった。震える彼女は可愛くて、すぐにでも自分のものにしたくて堪らなかった。けれど、怖がらせたくはない。俺は出来る限りゆっくりと、事を進めた。俺がセックスのときに相手の事を考えてあんなにも慎重になったのは初めてだ。まるで繊細なガラス細工を扱うように、俺は美緒に慎重に触れた。
 だめだ。思い出すだけで、体が熱くなる。
 シャワーの下で、存在を主張し始めたソレを見て、俺は苦笑した。冷たいシャワーを浴びなければ…。


 いつもより少し早めに会社に着いた俺は真っ直ぐ自分のオフィスへと向かう。秘書である沢口が常駐している部屋を通り過ぎると俺のオフィスがある。
 俺より早く出勤している沢口が、おや?と不思議そうな顔をして片眉を上げた。それには気付かない振りをして簡単に挨拶を交わし、俺は奥へと続くドアを開けた。
 パソコンを起動させてからクローゼットを開けるとコートを脱いで掛けた。デスクに戻り腰を降ろすと、まもなくノックの音が響く。返事をすると沢口が入って来た。

「専務、今日は随分お早い出勤ですね」

「ああ、ちょっとな。それより沢口、美緒は今日は休ませるから、有給申請しておいてくれ」

 すぐに沢口の瞳が鋭く光った。その視線が俺の左手へと移る。そこには、美緒からもらった絆創膏が貼られたままだった。

「ほう。渡辺さんはお休みですか。……随分可愛らしい絆創膏を貼っているんですね」

 にこりと笑顔で答える沢口は全てを見透かしているようだ。

「おや、傷も増えているのではないですか?どうなさったんです?専務が家事なんて……なさるはずがないですよね」

「沢口、お前……」

「冗談ですよ、分かってますから。上手くいったようで私も安心しました。渡辺さんの有給は申請しておきますからご心配なく」

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