もう一度、あなたと…
『ねぇ、太一…』

折角の外食も無言のまま。怒ってるような彼にビクビクしながら声をかけた。

『何か話そうよ、これじゃあ…お通夜みたい…』

言い方がマズかったのは認める。でも、私以上に太一の態度が大人気なかった。

『葬式じゃないだけマシだろ!』

明らかに怒ったような声。その一言でブチキレた。

『何よ!人が折角楽しい気分で食事したいと思って言ったのに!もういい!分かった!ずっと黙っておけば!』

ガチャン!と箸を置いて食べるのを止めた。
こんな気分のまま、食べれないと思った。

黙々と箸を進める太一を見つめ、泣き出しそうになる。
泣いたら負けだと思って我慢する。そのうち、彼が言い出した。

『…ごめん…俺が悪かった…』

箸を掴み、私に差し出す。

『だから食ってくれ、料理がもったいねぇ』

太一の渋い顔。でも、さっきみたいに怒ってはいない。

箸を取り、食べ始める。ゆっくりしか食べれない私を、太一は黙って見つめていた…。

『……今度…本番の時は…お前の好きなの、何着でも着ていいから…』

ムスッとしたまま言う。これが私じゃなかったら、またケンカになるところだ。

『…ごめん…私も言い方悪かった…』

写真を撮ろうと言われたのは嬉しかった。ダメだったのは、ドレスだった。

『あの写真、帰ったら飾ろう…⁉︎ 本番までの記念に』



…何故、そんなことを言ってしまったんだろう。お陰であの後、ずっと後悔することになった。



(だから今、こんなステキなドレスを着てることが夢だと思うんだ…)

誰も戻って来ない室内で目を閉じる。
夢なら早く覚めて欲しい……と、心の底から願った……。
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