もう一度、あなたと…
2時間ほどの披露宴と二次会を無事終えて、私達はホテルの一室にいた。

慣れない衣装とお喋りの連続で、お互いくたびれ果てていた。

「……疲れたな…」

ベッドに横たわったままの状態で、「たからがひかる」が呟いた。

「そうね…」

カウチソファに寝そべって答える。

二次会の席でも、太一の姿は全くなかった。
同じ会社に勤めていないのか、はっきり確かめる事もできなかったけれど。


「……エリカ…先にシャワー浴びていいぞ。疲れたろ?」

ベッドに横たわる「たからがひかる」がこっちを向く。
ワックスで整えられてた髪が乱れてる。それを見て、ハッと気づいた。

(そうだ…今夜って……初夜じゃん…)

考えてもいなかった展開に、いつまでも夢見心地でいたけど、これから始まる夜の時間、一体どんな顔して彼と向かい合えばいいのか。
キスまでしといて今更だけど、シャワーまで勧められて…その後は……⁉︎

「わ…私、後でいい…先に浴びて…」

ドギマギしながら断った。さすがにそれはマズいと思った。
夢の中の夫でも、やっぱり最後の一線は引いておかないといけない気がした。


「…そっか。じゃあお先に…」

ネクタイを緩めて彼が起き上がる。
その場で服を脱ぎだすから、大慌てで背中を向けた。

「…あ、あっちで脱いで!」

記憶もない人の身体を見るのなんて憚られる。
「たからがひかる」は、くすり…と笑い、「はいはい」とバスルームに向かった。

程なくして聞こえてくる水の音。
背中越しに聞きながら、ドキドキと胸が震える。

夢だ夢だ…と思いながら、今日1日を過ごしてきた。
いつか醒めるだろうと、そう思っていた。
なのに、いつまで経っても醒める気配はない。
このまま明日を迎えて、それでも目が覚めなかったら……
ううん、それよりも、今はこれからの先のことが問題。
このままだと、「たからがひかる」と初夜を迎えることになってしまう。
彼にとっては初めての夜じゃないにしても、私にとっては初めて。
正確に言うなら、太一以外の男性とは初めてだ。

(そんなの…いくら夢でも…困る……)


目覚めなくては…と、思いきり頬を抓った。
でも、痛いだけで目は覚めない。

「まさか……夢じゃないの…⁉︎ 」

呟く声が不安そうに響く。
自分の声なのに、誰かの声のようにも感じる。
それもきっと、夢だと思ってるから…。

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