もう一度、あなたと…
「…一緒に風呂入ろうか?ついでだし…」
「えっ…」

ギョッとして目を向けた。
ニコッと微笑むその顔が、冗談言ってるようには思えない…。

「な…何⁉︎ 急に…」

オドオドして聞き返す私の頭から手を離し、ひかるはお湯を溜めだした。
真面目な顔をしたまま黙ってる。そんな彼を見つめたまま、身動き一つできなくなった。


「…夫婦なんだから、風呂くらい一緒に入ってもいいだろ⁉︎ 初めてじゃないんだし…」

そう言いながらワイシャツのボタン外し始める。
目のやり場に困る。
彼は初めてじゃないかもしれないけど、記憶のない私にとっては初めてと一緒。

「…ほら、エリカも脱いで。濡れた服着てると風邪ひくぞ」

ブラウスのボタンを外された。
頭の中がパニックになる。どうしたらいいか分からなくなって、慌てて身を避けた。

「ま、まま…待って!そんな…急に言われても…私…ムリ!」

つい最近、結婚したばかりで、しかも記憶のない状況は何も変わってないのに、こんなの…急すぎる!

「なんで?バツイチの相手とは、何度も一緒に風呂入っただろ⁉︎ 」

ギクリとする様な言葉を吐いた。
誰とは口にしないけど、やっぱり何か勘づいてる…。

「そいつとは一緒に入れて、俺とは入れないとか…そんなのあり得ないだろ?」

あり得るとかあり得ないとかの問題じゃない。
最初から予想もしてなかったこと……


じわり…とひかるが寄ってくる。
怖くなって、ぎゅっと体を縮こまらせた。

「…ご、ごめんなさい…許して…!」

叫ぶように声を出した。
寄ってくる彼が止まる。
ふわっ…とあったかい物が引っ掛けられる。
脱いだワイシャツを、彼が頭から被せたんだ。

「これ貸してやるから、早くその服脱げ!」

ブツブツ言いながら袖を取る。さっさとブラウスを脱がし終えた彼が、スッと立ち上がった。

「そのまま風呂入れ!風邪ひくなよ!」

「続き食ってくる…」と、その場を立ち去った。
浴槽内にお湯は半分も溜まっていない。
冷たい格好のまま待たずに済むよう、気を配ってくれたんだ…。

ほっ…と胸を撫で下ろす。
本来なら夫であるひかるとお風呂に入るのは当たり前のこと。彼の言う通り、太一とは何度も一緒に入ったことがある…。

(…でも、あれは夢だから…)

思い出したくもないことを思い出しそうになって、慌てて服を脱いだ。
浴槽内にお湯を溜めながら、バシャバシャとお湯を浴びる。忘れたい記憶を打ち消すように、熱いお湯の中に飛び込んだ。
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