もう一度、あなたと…
「大丈夫だ…しっかりしろ。オレが側にいる…」

震える私を包むように抱いている。
初めてじゃない気がする。確かに何度も、この胸にすがった気がする。

(なのに何故…⁉︎ どうして何も覚えてないの…⁉︎ )

「どうして…?どうなってるの!?…私……」

目から涙が零れ始めた。
生温かい感触が、これは現実だと物語ってる。
確かに夢じゃない気もする。だったら今までいた場所は何なの⁉︎ あの苦しくて悩んだ日々は一体、何だったの…⁉︎

(幻…?夢…?そんな言葉で片付けられるような日々じゃなかった筈なのに…)

「嘘…ダメ……そんなことない……そんなのヤダ…絶対にイヤッーーー‼︎」

泣き叫ぶ様な声を上げる。それを聞きつけ、母が部屋に飛び込んで来た。


「何事⁉︎ 」
「…お母さんっ!」

彼の手を離れ、母にしがみつく。まるで幼い子供のようにぎゅっと抱きついた。

「どうしたの…一体…?」

私の様子を見て、同じ部屋にいた男性に尋ねた。

「それが…どうも…記憶が混乱してるみたいで…」
「記憶が混乱⁉︎ 」

母が不思議がる。
「たからがひかる」は、さっきからのやり取りを母に説明し始めた。

「自分のことを先月離婚したばかりの32才だと言うんです。僕のことも会社の同僚としか覚えてないみたいで、どうしてここにいるのかも、サッパリ分からないって…」

腕の中で震える私に目をやる。
ただならね状況にある事は、母の目から見ても明らかだった。

「…とにかく少し落ち着いて…横になりましょ…」

壁付けされているソファまで、肩を借りて移動する。ヒールの高い靴を脱いで横になると、気分がいくらか楽になった…。

「困ったわね…どうしてこんな事になったのかしら…。もうすぐお式も始まって、親族同士の顔合わせもあると言うのに…」

ハラハラした様子で母が言う。
側に付いていた「たからがひかる」は私と母を見比べて、意を決したように立ち上がった。

「…精神的な不安から来る一時的な混乱かもしれませんけど、今の状態では直ぐには式は行えないと思います。もう少し落ち着いてからにして貰えないか、式場関係者と相談してきます」
「そ…そう?そうね…そうしてくれる?…光琉さん…」
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