もう一度、あなたと…
「やっぱり…これは夢としか思えない。ひかるのように素敵な人と結婚したことも、太一があんなセクハラ部長になってることも…全部…夢にしか思えない…」

膝の上で手を握る。
何もかも、手の平に触るもの全て、しっかりした感触があって、ホンモノみたいだけどーーー

「私…記憶の中で、もう一度生き直したいっていう気持ちが強かったみたいで…だからこんな…夢を見てるのかな…って気がする」
「夢じゃないかもしれないだろ⁉︎ 」

口を挟んだひかるの顔を見た。真剣な眼差しが注がれてる。
私にとっては夢みたいな世界だけど、彼にとってはここが現実。
だから、思いに差があるのは仕方ない…。

「絶対に…夢だと思う。だからもう…現実とは思えない。でもね…だからこそ、ひかるに全部話しておきたいの…」

彼の手を握りたいのを我慢した。
握ったら最後、絶対に手放せなくなるーーー

「私…太一との結婚生活が苦しくて…虚しくて…二人でいても、いつも一人みたいな毎日だったの…。子供も出来なくて…その原因が太一にあるって判ってからは…求められることもなくなって…夜も…いつも独りきりで……」

昨夜のことを思うと、胸が切なくなる。
人に愛されるという幸せを肌に感じたのは、ホントに久しぶりのことだった…。

「寂しかった…体だけじゃない…心がずっと…寂しい寂しい…って、悲鳴ばかり上げてた…」

泣き叫びたいのを我慢する日々。
同じ家に住んでいるのに、会話のない夫婦。
そんな中で顔を合わせるのは、食事の時だけ…。

「私達…そんな関係だったけど、ご飯だけはいつも一緒に食べてたの。だから最後の日も、食事だけはしてくれるだろうって思ってたのに…家を出たまま…太一、帰ってこなかった……最後の晩餐もナシに……私達は…別れたの……」

寝ずにずっと待ってた。
彼と最後の食事をしながら、この10年間、ホントにありがとう…とお礼が言いたかっただけなのに…。

「私ね…あの人と写真だけは撮ったのよ。ウエディングドレス着て記念にって…。でもね、そのドレスが似合わなくて…本番では絶対に似合うの着るんだと、ずっと心に決めてたの。だからこの世界に飛び込んだ時、何着も着て選んだと聞いて、スゴく納得させられた…」



『似合うよ…』


鏡に映ってる姿を褒められた。
その言葉を言ってもらって、スゴく嬉しかった…。
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