もう一度、あなたと…
『あっ、杉野さんっ!』

上から呼ばれて振り返った。
その途端、バランスを崩して……

『…あっ!』

手に持ってた箱ごと階段を転げ落ちた。
身体中を打って、あちこちが痛くて…特に右足の腿の付け根に激痛が走ってーーーー




(…ああ、そっか…あの時にできた傷か…)

少しずつ蘇る記憶。
残る時間が少ないことを、どこかで悟った。


(……もう二度と…この胸に抱かれることがないなら…)


「ひかる…私…あなたの子供を…産みたかった…」


ーーー太一には言えなかった言葉。
子供が欲しいとは、決して言ってはならなかった……。
でも、これは夢だから。
言っても、どうせ叶わないからーーー

「子供を産んで、一緒に育てて、そして巣立ったら…また二人に戻って。寄り添って…ずっと一緒に…生きていきたかった……」

「エリカ…」

甘い囁きも熱い体温も忘れない。
今この時だけだとしても、決して忘れず覚えておくーーー

(いつか…夢の続きが見れるまで……)


ずっと…願い続けていくから…

だから、ひかるも……


「忘れないでいて…私とのこと……」


ぎゅっ…と抱きしめて目を閉じた。
次に目を開けた時、彼はもう…私の前にいない筈…

32才のエリカは独身に戻って、「高橋江梨花」として…生きているんだーーーー



「エリカ……!」

「たからがひかる」の声が響いた。

ううん…違う。

この声はーーーー……
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