もう一度、あなたと…
Act.10 構って欲しい…
「エリカ!」

大きな声に引き戻される様な感覚がした。
目を開けると、ぼんやりと視界が霞む。
瞬きを繰り返していると、ようやく霞がとれてきた。

眩しい光に目を細める。
その中に…誰か…いる……。


(この人は…)

「エリカ、しっかりしろっ!」

聞き覚えのある声。


「…た…いち…」

覗き込むように私を見てる。その目が一瞬丸くなって、それからうっすら涙ぐんだ。

「意識が戻ったの⁉︎ 」

駆けつけてきた人が心配そうに顔を覗かした。ぎゅっと右手を握りしめる。

(痛っ…!)

指先を握っただけなのに、何故だか身体中が痛い…。

「エリカ…分かる⁉︎ 私よ!…舞よ!」

ぎゅっと力を入れる。右脇に痛みが走る。息が詰まるような感じがして、声が出しにくい…。

「……舞……分かるよ…」

泣きだした。
太一といい舞といい、どうして二人とも、泣いたりするんだろう…。

「ここは…どこ⁉︎ …私…どうしてこんなに…身体が痛いの…⁉︎ 」

動かせないくらい痛い。目の動く範囲でしか、周りも見えない………。

「もしかして…ここ…病院⁉︎ 」

自分の側に点滴の棒が立ってる。
その先に袋。黄色と透明の液体が二つもぶら下がってる。

「こんなに沢山…一体…何があったの… 私……」

何だか喋りずらい。薬のせいか…頭もぼーっとする。

説明しようとする舞に変わり、両親が顔を出した。
二人とも年とったみたいに憔悴しきってる。

「…目が覚めて良かった…」

母は私の頬を撫でて囁いた。

「何があったの…?」

父に尋ねた。頑固者の父は肩を落とし、優しい声で答えてくれた。

「会社の階段から転げ落ちて、あちこちケガをしたんだ。それから骨折もな…」
「骨折…?」

(ああ、そっか…それでこの痛みか…)

背中がやけに痛いのは、転げ落ちた時、背骨を庇って脇を打ち付けたからだ。

「肋骨3本、右脇腹打撲、大腿部は古い釘を引っ掛けて、10針ほど縫った…」

ぶっきら棒な言い方で教えてくれる。太一のその声に、少しほっ…とした。

「頭も打ってるかもしれないって…落ちる現場を見た人が言ったから、皆スゴく心配したんだよ。でもね、どこも異常ないって…」

舞が左側から話してくれる。

「落ちる現場を見た人…?」

視線を舞の方に向けた。

「エリカのこと、上から呼んだ人よ。それで振り返りざまにバランス崩して、階段を転げ落ちたの」
「…そうなの……」

(そう言えば…確か呼ばれた気がする。離婚したのに『杉野さん』って……)

思い出して息を吐いた。足元に立ってる人がこっちを向く。
久しぶりな顔。
この人をまともに見たのは、いつが最後だったろう…。
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