もう一度、あなたと…
俯いてた彼の目がこっちを見た。
涙の溜まった顔に微笑みかけて、手を離した。

「一緒に記念写真撮ったでしょ。あそこから…やり直したいな…と、いつも願ってた…」

テレビの横に飾られてた写真。毎日見ては、ため息ばかりをついていた。
後にも先にも、どうしてあんな似合いもしないドレスを着てしまったんだろう…と、いつも後悔ばかりしていた。

「本番では好きなの何着でも着ていいって言ってくれた時…嬉しかった…。いつかそんな日が来るんだって…そう思えたから…」

あの頃は、予測もできなかった。
お義父さんが病気で亡くなる事も、その後を追いかけるようにお義母さんが亡くなってしまう事もーーー。


「でもね…今はそんな気…なくなったの…」

胸が痛む言葉を言った。
太一の眼差しが揺れてる。
そう返事されるのを、どこかで覚悟してたような顔だった…。

「私が階段から落ちなかったら…太一もそんな気…起こさなかったでしょ…?」

頷くのを躊躇ってる。
でも、長年見てきたから分かる。

「太一は…一人になってしまうと…思ったのよね…」

私の言った事が図星だったみたい。
驚いたような表情になった。
その彼に向かって、話し始めた……

「私の身にもしも何かあったら…自分の事を知ってる人が、また減るもんね…。そんなの…耐えられないもんね…」

子供もできない。私の願いも叶えられない。それならせめて、自由にしてやるしかない。
太一はきっと…そう思ってた筈だからーーー。

「…確かに私…結婚式もしたかったし、子供も欲しかった。でも、それ以上に、太一に…構って欲しかった…」

いつも背中を向けられて、どこで何をしていても知らん顔してる彼に構って欲しかった。

泣ける胸を貸して欲しかった…
愚痴を聞いて欲しかった…
助けを求めて欲しかったし、慰めても欲しかった……

不器用な人だから…と諦めてしまう前に
自分からもっと…頼めば良かった…


側にいて。
話を聞いて。
一緒に笑って…と……

壊れてしまう前に…
離れてしまう前に…

もう一度…

あなたと…

太一と…

一つになりたかった……。


何も変えられない家の中のように、太一の不器用さも…頑固さも…私の言葉の足らなさも…変わらないままの生活だった…。

最後まで…

私達は…

一人きりだったーーーー
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