もう一度、あなたと…
「…今、どんな生活してるの?…」

窓の外を見たまま尋ねた。

「どんなって…普通だよ」
「まだ…一人なの?」
「…当たり前だろ!まだ1ヶ月しか経ってねーよ…」
「それもそうね…」

現状確認は済んだ。だからどうするって訳でもないけど…。

「エリカは?…新しい男できたか?」
「できる訳ないじゃん!私だって、まだやっと1ヶ月過ぎたばかりよ!」

握られてた左手の力が緩む。
自然に放されても、追いかけていこうとしないのは、私達が別れた証拠…。

「私…こんなふうに太一と話せることなんて、二度とないと思ってた。だから…今、スゴく不思議な気分…」

いろんな感情が渦巻いてた。
押し殺すような日々の中で、言いたい事も言わずにきた。
だから今、この瞬間がスゴく有難いーーーー

「…ずっとね…思ってたことがあるの…聞いてくれる?」

最後の晩餐で話そうと思ってたこと。
それを今、ここで話しておこうという気になった。

「…俺も…エリカに話しておきたい事がある」

真面目な顔で太一が言う。
こんな表情でいる彼を見たのは、いつ以来だろう…。


「…聞かせて。太一から…」

…いつも話しかけるのは、私の方が先だった。
太一はそれに言葉少なく答えて、そして、いつも最後は背を向けたーーー



「エリカ……俺達、やり直さないか?」

開いた口から飛び出した言葉にビックリした。
そんな事を言い出すような人だとは、全く思いもしなかった。

「…エリカが階段から落っこちたと聞いた時、生きた心地がしなかった。別れたとは言え…お前は俺の大事な人だし、これから先もそれは変わらねーから…」

釘を引っ掛けた傷から結構な出血があって、太一は私が死んだらどうしよう…と真剣に考えたらしい。

「十年も一緒にいたのに、幸せにしてやれなかった…。結婚式も子供も…望むこと、何も叶えてやれなかった…。後悔ばかりで…情けない…」

苦悩してる姿を見せたこともなかった太一が、自分の気持ちを吐露してる。
その姿が、スゴく愛おしく思えた…。

「付き添ってる間、エリカが元気でいるなら、他のものは無くてもいいと思った…。俺にとってかけがえのない存在はエリカだけだと、ようやく身に染みて分かった…」

「太一…」

泣き出しそうな彼の頬を触った。
その言葉を言って貰えただけで、スゴく嬉しかったーーー。

「…私もね…太一ともう一度…やり直したいって…ずっと…思ってたの……」

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