もう一度、あなたと…
「あーもう、こんなに酔って…。…ねぇ、誰かエリカを担いでくれない?」

騒つく店内で、舞の声が聞こえた。

「私なら…だいじょーぶ!ぜーんぜん平気だから…!」

フラフラなくせに強がった。目の前もくらくらする。
久しぶりにまともに酔ってると自覚はしていた。

「ちっとも平気じゃないじゃん!…ねぇ、誰か…」

あっ…と声を上げる。

「ねぇ!ちょっと!君、君!」

誰かを呼んでる。
私のことを担いで…って頼んでるみたい。
嫌そうな声が聞こえて、ふわっと体が持ち上がった。

「…どこまで?」

舞に聞いてる。
どっかで…聞いたことがある声。

(どこでだっけ?…)

思い出せない…
頭フラフラして…気分…悪い……


「うっ……!」

むかつきが上がってきた。
この体勢、胃を圧迫する…!

「ごほっ…!」

咳と一緒に酸っぱいものが喉を通った。

…大きな声で誰かが叫んでる。

…気持ち悪い……でも、少しスッキリしたーーー。






「……んっ…」

重い瞼をこじ開けた。
ゆっくり拡げてみると、白いシーツのようなものが目に入る。

(あれ…こんなシーツしてたっけ…?)

自分のベッドを思い出す。
でも、頭が痛くてどうにも思い出せない…。

(ヤバい…完全に二日酔い…)

昨夜どのくらい飲んだか憶えてない。
復帰祝いに散々注がれて、太一のこともあって、深酒し過ぎたかなと、思ってたけど…。

ゆっくり体を起こして横を見る。
側に誰か…寝てる……

(誰…⁉︎ )

見たことあるようでない。

(もしかして私…酔った勢いで、お持ち帰りとか…された…?)

まさか…と自分の格好見る。
上は下着。
でも、下はキチンと着てるし、乱れてもない。
なのに…

(どうしてこの人は…裸なの…?)

下までは怖くて見れないけど、上は完全に裸。
しかも、よく見たらーーーー


(…この人…隣の部署の……)

「宝田…光琉…」

名前を声に出した。
相手の顔が歪む。
ハッとして、急に目が覚めた。

(…ヤバい!目を覚ます前に逃げないと…!)

干してあった服を着る。
ピクリとも動かない彼の様子を確かめて、部屋から飛び出した。

真っ直ぐ廊下を突き当たり、エレベーターで外に出る。

「げっ!ラブホ⁉︎ 」

大学以来、来たこともない場所。
何があって、こんな場所に彼と一緒に入ったの…⁉︎

あやふやな記憶。
でも、とにかくここから立ち去らないと…。

(こんな所に彼と入ったなんて、ファンクラブの連中に知れたら、大変なことになる!」

「ひかるの君」と称されるくらい、女子達に人気のある人。
私のお見舞いに来たってだけで、しばらく舞は質問攻めにあったくらいだ…。


慌てて走り出した。
頭痛と頭重を抱えながら、胸に彼の寝顔を抱きしめてーーーー
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