もう一度、あなたと…
週が明けて仕事場へ行った。
何か噂されてるかも…と覚悟してたけど、何も聞いてくる者はいなくてホッとした。

「あの…さ…舞……」

復帰祝いの席であった事を聞こうとして、やっぱり怖くて聞けなかった。
舞は「ひかるの君」ファンクラブの一員。
いつもいろんな情報をかき集めては、皆に撒き散らす張本人だ。

「何?エリカ」

声かけて止めたから不思議がられた。

「ううん、何でもない!」

顔を引きつらせて逃げる。
親友にも聞けないような秘密を抱え込んでる。
こうなったら何があったのか、本人に聞くしかないんだけど…。



「ひかるく〜ん!」

朝からファンクラブの子に取り囲まれてる。
モテる人は大変だな…と思う。
でも、それはつまり、簡単には聞き出せない状況にあるってことで…


「…何ですか?」

振り向きざまに聞かれた。
彼のことを、私が睨むように見ていたからだ。

「い、いえっ!何も!」

焦って逃げ出す。
何があったかなんて聞き出しにくい。
第一…顔を見ると、あの寝顔が思い浮かんできて……

ドキドキするような鼓動を感じる。
イケ面と呼ばれてる人の顔って、寝てる時も整ってるんだ…と知ったばかりだった…。


(…私には、太一くらいで丁度いい…)

四国に行ってしまった元夫のことを考えた。
今頃、どんな仕事ぶりでいるだろうと思ってしまう。
むこうでは彼のことを知ってる人もいない。
だから、変に誤解されるような態度でいて欲しくないんだけど……。




「ーーあっ!杉野さんっ!」

廊下を歩いてる所を呼ばれた。
昼休みを挟んだ午後、私は「ひかるの君」に呼び止められた。

「…そうだ…高橋さんでしたね…すんません…」

気まずそうに謝った。病院でそう呼ぶように言ったのは私。
でも、顔を合わせるのが、今、一番気まずい…。

「あ…あの…私…ちょっと急ぎの用があるので…」

バタバタ…と走り出した先で躓く。
手に持ってた書類を撒き散らして、大慌てでかき集める。
その目の前に、書類の束を見せられた。

「…はい、これも…」
「あ…すみません…」

拾ってくれた人の顔を見上げた。

「…げっ!」
「 何⁉︎ 」
「い、いえ。どうも…」

よろつきながら立ち上がる。その瞬間、ぐっと支えられた。

「…フラフラしてると、またケガしますよ!不器用なんだから…」

ドキン…!と胸が鳴る。
いつだったか、同じことを言われたような気がする。

(この人に…似た声で…)

「どうしました?」

「ひかるの君」に問いかけられてハッとした。
今の状況を思い出す。

「何も…どうもすみません…」

その場から逃げるように立ち去った。
ドキドキしながら早歩き。意識しなくていいのに、あんなに近付かれると嫌でも意識してしまう。

「…しまった!今、聞いておけば良かった!」

一緒にホテルにいた理由。聞けるチャンスなんて、そうそう無いのに。

「あー…もう…」

我ながら情けない。
年下の子と、マトモに話もできないなんてーーー。
< 72 / 90 >

この作品をシェア

pagetop