もう一度、あなたと…
Act.12 お願い…
翌日の9時5分前。「ひかるの君」は愛車だという軽ワゴンで迎えに来た。

「意外と庶民的な車に乗ってるのね…」

3ナンバーかスポーツカーで迎えに来るのかと思っていた。

「サラリーマンなんて、そんなもんでしょ」
「…そうか…デートもしなきゃいけないから、お金無いんだ!」

ファンクラブの面々が思い浮かんだ。素早く車に乗ったから、誰にも見られてない筈だけど…。

「デートなんて…この最近、誰ともしてないですよ!…彼女だっていないし…」
「うそぉ!それ信じられない!」

オーラ出しまくってる彼に笑いかけた。呆れるようにため息をつく。
まさかホントに…と思ってしまうのを頭から否定した。

(絶対、彼女いるって!こんな人にいない筈ないんだから!)

いちいち信じてたらきりがない。
舞みたいに美人な彼女が、きっといるんだ…と思い込んだ。

「…ねっ、私を連れて行きたい場所ってどこ…?」

南方面に向かって車を走らせる彼を眺めた。
ちらっとこっちを振り返る。

「いい所です!着いてからのお楽しみ!」

サングラスの奥の瞳が細くなる。
きらきらと光り輝くような笑顔を向ける彼が、同じベッドで寝てたことを思い出した…。

(それ、今思い出さなくてもいいって…!)

狭いの車の中で顔が熱くなる。
パタパタと手で仰いでいると、向こうがそれに気づいた。

「暑い?エアコン効かそうか⁉︎ 」

ファンを回そうとする。その手を慌てて止めた。

「いいから!」

触れた指先にビクつく。
初めて触れたはずなのに…初めてじゃない気がする。

(……どうして…!?)

添えてる手を見つめた。
相手がこっちを見てることなんて、気づいてもいなかった。

「あの…エリカさん…」

大きく胸が震える。
手を触れたまま、彼の方に目を向けた。

「手…放してもらえますか?片手運転だと危険なので」

ハッ!…と我に返る。
放した指先が覚えてる感触。

(やっぱり…初めてなんかじゃない…)


「…どうかした?」

いつまでも手を握りしめてる私を不思議がった。
普段から女性に触られ慣れてる彼にとって、今のは特別変わりのないことかもしれないけど…。

「う…ううん、なんでもない…」

声が震えそうになって俯いた。
ドキドキする胸の鼓動を聞きながら、カーステレオから流れてくる曲に耳を傾ける。

誰もが知ってるラブソング。
この曲は、太一もよく聞いていた…。
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