もう一度、あなたと…
「ひっ…く…」

思わず出た声に喉を詰まらせた。
溢れ出す涙が止まらない。
両手で顔を隠す。
こんな涙、彼には見せられない…!


「エリカ…!」

彼に抱きしめられた。
ダメだと首を振る。
こんな事をされると、嫌でも心が傾く。

「ダ…ダメ……!ひかる…くっ……」

口が塞がれた。
彼の唇と舌が、一気に心をさらってく。
あの夢の中と同じ様に、身体中を熱いものが駆け巡ってく。
放したくない思いが、彼の背中を抱きしめさせる。

「ひかる……!」

ぎゅっ…と抱きついて放れたくなかった。
そこが店の中で、周囲に人がいるとしても、関係なかった……。

「エリカ…」

彼に名前を呼ばれる度に、身体中から熱いものが湧き出してくる。
この人と夢の続きが見たかったからじゃない。

この人のことが、本当に……

「好き……ひかる……」


心からの思い。
もう絶対に揺るがないーーー


「…お願い…!私と一緒にいて…そして二人で…」

「生きて行こう…!」

彼の言葉に顔を上げた。
信じられない気持ちでいると、彼が優しく微笑んだ。

「夢の中で…エリカが俺に言った。『二人で生きていきましょ…』って。まさか、正夢になるとは思ってなかった…」


腕の中で知る真実。
まるで、夢心地のようだったーーーー




……ひかるがその夢を見たのはつい最近。
私が入院中、彼と結婚してた夢を見たと話すと、「へぇ。すごい偶然!」と笑ってくれた。



太一には、断りの電話を入れた。
彼は「そう言われると思った…」と、呟いて電話を切った。

この3ヶ月間、二人で時間を埋め尽くすように話し込んだ。
太一は実家の模様替えについて、ホントにどうでもいいと思ってたらしかった。

「エリカが手伝ってくれと言えば幾らでも手伝うつもりでいたのに、お前何も言わないからいいのかと思ってた。もう少し、言葉かけてやれば良かったな…悪かった…」

単なるコミュニケーション不足。
ひかるにそう話したことがあるけれど…

「太一も私も…お互いどこか無関心だったのかもしれないね…。その方が、暮らしやすいと思ってたのかも…」

子供もいないまま10年が過ぎて、お互い自由に慣れていた。
寂しさや虚しさはあったけど、気楽でもあった。

…だけど私は、やはり何かに縛られて生きていたかったんだと思う。
それが、あの夢の続きでもいい…そう感じていたからこそ、ひかるとも会ってたんだーーーー



ひかると付き合いだしてから、会社で時々イジメにあった。
ファンクラブの連中からは無視されたし、舞の態度もどことなく冷たかった。
でも、ひかるが私を励ましてくれたから、なんとか乗り越えられた。

「年上とかバツイチとか、そんなの関係ない」

彼がそう言ってくれたから…。
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