もう一度、あなたと…
「…プロポーズされたの…」

ひかるに話した。
太一と会ってることを承知の上だったから、いつかはそんな日が来るんじゃないかと思ってたらしい。

「じゃあ、俺とは今日が最後だね」

寂しそうに呟いて席を立とうとした。
その手を思わず握った。

「待って!」

何度も会っているのに、殆ど手も繋がない付き合いをしてた。
握ってしまえば、あの日の夢が蘇る。
蘇ってきたら、もう二度と手放せなくなると分かってたからーーー

「エリカ…」

さん付けをやめて名前を呼ばれた。
その彼の…顔を見た……


(……夢で一緒に暮らしてた人。私のことを愛し、共に生きていくと誓ってくれた人。でも…それはあくまで私の作り上げた夢の世界での話……)

「ひかる…」

名前を呼び捨てる度に思いが募った。
彼ともう一度、あの夢の続きを見たいと願った…。

(だけど、この人に…私は似合わない……)

年上でバツイチで、不器用でドジ……取り柄なんか、何もないから……

「…今日までありがとう。…太一との縁を結んでくれたこと…忘れないから。ステキな彼女ができること…ずっと祈っておくから……」

サヨナラ…とは言えない。
そこまで深い付き合いでもない。

(ただ、彼が…私に夢の続きを見せてくれただけで…幸せだった……)

握ってた手を放した。
これから先、私が握る手は、この人の手じゃない。
10年間、苦楽を共にしてきた…太一の手だーーーー

「元気で…幸せに…」

胸の痛くなる様な別れの言葉を彼が言った。

もう二度と…ホントに、話もできなくなる…そう覚悟した。

「…ひかる…君もね…」

無理やりな君付け。
年上の女性らしく、笑って見送ろうとした。


…のにーーー
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