俺様社長と秘密の契約
俺の言葉を聞いた理子は、一瞬キョトンとして、次の瞬間にはクスクスと笑っていた。

・・・こうやって二人きりの時に、素の表情を見たのは初めてかもしれない。
いや、仕事でも、こんな顔は見た事がない。
・・・やっと、自分にも、本当の顔を見せてくれたのかと思うと、妙に嬉しかった。


…待てよ。
この笑顔を、これ以外で、ただ一回だが見た事があった。
伊織と一緒にいた時だ。パーテイーの時、伊織と話していた理子は、本当に楽しそうだった。
あの会場で、ただ一人、伊織だけは、理子の緊張を解いてやれた人物なのだろう。

・・だが、そう思うと、急に嬉しさは消え、虚しさがこみ上げる。
伊織にはできるのに、自分には出来ないそれが嫌だった。


・・・自分の想いを、理子に告げたら、この関係に何か変化はあるんだろうか?

「…理子」

「・・・なんですか?」

名前を呼び、自分の想いを言おうとしたが、真っ直ぐに見つめられると、言えなくなってしまう。

「…どこか、行きたい所はないか?」

「…行きたい所、ですか?」

「あぁ」

俺の問いかけに、理子は首を傾げ考え込む。
・・・考えること数分、全く答えが浮かばないのか、理子は困惑の表情。


「なければいい」
そう言って立ち上がろうとすると、理子は慌てたように言葉を発した。

「あるんです!あるんですけど・・・」

そう言って俯いてしまった理子。
俺はなんだか腹が立ち、理子を責めた。

「言いたい事があるならさっさと言え、グズグズされるとイラッとするから」

「水族館に行きたいです」

「・・・え?」

「こんなに天気がいい時は、よく水族館に行くんです。
でも・・・この格好ではいけませんよね・・・忘れてください」

・・・行きたい所はすぐに浮かんでいたようだ。
でも、確かにそんなダボダボのジャージでは、外に出る事すらできない。

・・・自分で言いだした事とは言え、服の事までは考えていなかった。
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