大切なものはつくらないって言っていたくせに
その店は、神楽坂にある古民家を改造した完全予約制の和食料理屋。

俺たちは、そこに着くまでも、佑樹の事はひとことも触れずにいた。
俺が彼女の仕事のことや、さっきの撮影で思ったことや質問をする。
彼女は、ポツポツと質問には的確に答えてくれる。

店に着くと彼女は少し戸惑って表情をする。
「ここ、実は来てみたかったお店です。ミシュランで三ツ星取ったのに、看板も出さず宣伝もしないお店ですよね。予約も一見さんは受け付けないっていう。。。。」

だろ?俺様のコネとツテはすごいんだぜ。
「料理も絶品だよ。酒、飲む?あ、俺は全くの下戸だから元々飲まないから遠慮しないで。」

「高いんじゃないんですか? それに、こんな敷居の高いところでなくてもいいのに。」

「なんで?佑樹の大事な人ならこのくらい普通普通。」
佑樹の大事な人という言葉が引っかかったのか、また彼女の目が揺らぐ。

「・・・・・・。」

彼女の顔をジッと見つめる。
今、ここで佑樹に大至急この店に来いと呼び出すかどうしようか迷う。

とりあえず、彼女の口からいろいろ聞いてからの方が良いだろうか?
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