大切なものはつくらないって言っていたくせに
私は、黙ってその額賀龍一という男の顔をじっと見る。

彼も、私をまっすぐ見ている。

「瀬田さんは、瀬田佑樹は、見つかったんですか?」

「………………それは言えないけど。祐樹の事で知りたい事があるなら、俺のスタジオに来て。」
彼は少し困った顔をしてそう言う。

「あなたと瀬田さんの関係は?」
私は素朴な疑問を持ち、質問をする。

「昔、俺は佑樹の専属スタイリストをしてた。 奴が17でデビューした時からずっとね。ま、あいつが売れっ子になったのも、俺のおかげってとこもあるし、佑樹が爆発的に大人気になったおかげで俺のビジネスも大成功したっていうのもある。なんていうか、ずっと一緒に仕事をしてきた戦友みたいなもんかなぁ。」

「………………。」
私は、目をそらしてうつむき加減で考える。
額賀龍一の話は耳に入っているけれど、あまりにも唐突すぎて自分の頭がついていかない。

「というわけで、今から来れる?」
額賀龍一は、ポケットに手を突っ込んだまま、私の顔を覗き込むようにして笑顔で誘う。

「………………やめておきます。」
私は、ハッとして咄嗟にそう言う。
うん、やめておいた方がいい。後から自分で納得した。

「はっ。なんで?」
少し眼を見開いて、もう一度私の目をのぞき込む。
距離が近いし。 私は、少し後ずさりする。

「もう、関係ないし。」

「ふうん。」
彼は上体を起こして、遠くを見やる。

「失礼します。」
私は、お辞儀をして伏し目がちに、その場を立ち去ろうとする。

「関係ないってなんで?佑樹と君の関係はなんだったの?」
後ろからたたみかけてくる。

私は振り返って言う。
「私は、三年前までイタリアで料理人として働いていました。瀬田さんは、そこの常連さんでした。といっても、あのイタリアが舞台の映画があったでしょう? 準備も含めて撮影期間の約2年間だけでしたが、ほとんど毎日うちのレストランに来ていました。あの映画がクランクアップされた後は、役作りをされているオフの時にしか来れなかったので、年に数回いらっしゃるくらいしか機会は無かったですが。」

「へええ。初耳。」
額賀龍一は、興味津々という感じで、目を輝かせる。

「もうそのお店も無くなっちゃいました。」

「佑樹が失踪した時、君はイタリアにいたんだ。」

「………………。」

「君が日本に戻って来たのはいつ?」

「・・・・・・ちょうど2年前くらいですかね。」

「佑樹が君に会いたいって言ってたとしたら? 君はどうする?」
< 2 / 105 >

この作品をシェア

pagetop