大切なものはつくらないって言っていたくせに
龍一は、俺の髪を乾かしながら

「いいねえ。現代の漱石先生。そのヒゲとマジ髪の毛きっちり後ろにオールバックすればまさにそれじゃね?」

おどけて言う。

俺は深く沈み込んだ気持ちになって、考えあぐねる。

「その神妙な面持ちも大先生みたいだ。」
龍一はどこまでも茶化してそう言う。

「・・・・・・行けなかったよ。」

「え?」

「失踪扱いだったんだ。ある意味、軟禁状態で休養してたからパスポート取って海外なんか行けるわけない。」

「・・・・・・・・連絡ぐらいできたんじゃないかって言ってたよ。」

「いつかきちんと迎えに行くとは思ってたさ。」


「へええ。その時にはもう作家を目指そうと決心してたんだ?」

「前からそっちの方が興味あったからな。」

「でも、連絡くらいすれば良かったじゃないか?」

「…………何もかも失って何もなくなったんだよ。連絡なんかできるかよ。」

「そんな風に格好つけてるからだよ。」

祐樹は、大きくため息をついて目を閉じる。


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