大切なものはつくらないって言っていたくせに
しばらく俺たちは、黙り込んでいた。

頼んでいた赤ワインのボトルを持ってウェイターがやってくる。
スマートにコルクを開け、フェルにテイスティングを注ぐ。
フェルは、一口飲んで、笑顔で頷き、それから俺をまっすぐ見る。
「僕がゲイを辞めたのはね、遥が好きだからだ。 彼女の力になりたいと思った。」
俺は、絶句してフェルを見つめる。
「そう簡単にやめる事ができるもんなの?」
「日本にも何回か行って、プロポーズもした。イタリアで、こっちで一緒に暮らそうって。」
「………………。」
フェルはフッと笑ってから、その後仰け反って大笑いする。
「祐樹のその焦った顔! 面白いな!ざまあみろだ!」
俺はムッとして、顔を真っ赤にする。
「からかってるのかよ!」
フェルは、ケラケラと笑い続け、ヒーヒー息を上げながら言う。
「安心しろ。 遥は、僕の事を同僚か友人以上には思えないって。だからそういう対象としてはどうしたって考えられないってさ。 それでもいいから婚姻関係を結んで、僕が養うってかって出たんだけどだめだったよ。」
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