大切なものはつくらないって言っていたくせに
フェルは、ウェイターに手を上げて、もう一本ワインのボトルを追加する。
そして、俺をまっすぐ見て、
「本題に入る?」
「本題?」
「遥と会ったの?」
「会ったよ。」
フェルは、チッと舌打ちして、ムッとする。
「遥、僕にはそれを黙ってた。」
俺は身を乗り出して、
「遥とまだ連絡取り合ってるのか?!」
フェルは、頬杖をついてそんな俺を小馬鹿にしたように横目で見る。
「連絡先なんか教えないよ。」
俺はガクっとうなだれて
「そこをなんとか。。。」
「僕に会いたいっていうのはそれが目的?」
「まあ、それもある。でも、フェルには会いたかったよ。」
「正直だね。 で、遥に会ってどうしたの?」
「殴られたな。二回も。」
「…………。呑気だね。なんで、居なくなった後、すぐにあの店に来なかったの?」
「いろいろ大人の事情だよ。大スターはいろんな業界のしがらみがあって身動き取れない。」
「でも連絡くらいできただろ? どんだけみんな心配したか。遥なんて、、、、」
そう言いかけてフェルは口をつぐむ。
「遥がどうしたって?」
「別に。」
「すぐには連絡できなかったよ。なにもかも失ったし、ちゃんと迎えに行けるような状態じゃなかった。」
「ばっかみたい。そりゃ大変だったのはなんとなく想像できるけど、愛してたらそのままの自分で転がり込んだっていいじゃない。格好ばかりつけるからだよ。 人生には、タイミングっていうのがある。」



そうかもしれない。。。俺は、タイミングを誤って、大切な人を失ってしまったのかもしれない。
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