今度こそ、練愛
「山中さん、お疲れ様です、ここに座ってください」
私の肩にもたれていた仲岡さんが、素早く立ち上がった。ひらりと手を差し伸べて、さっきまで座っていた席へと山中さんを促す。
「いいの? 僕は端っこの方がいいんだけどなあ」
「いいんです、主賓の隣に座ってください、だって、まだ初めましてでしょう?」
照れ臭そうに拒む山中さんは、仲岡さんに促されるまま私の隣へと腰を下ろした。弾みで山中さんの腕が私の腕に触れて、ふわっと柔らかな香りがスーツから舞い上がる。
やっぱり、知ってる。
この香りを、どこかで嗅いだような気がする。
「ごめん、狭くない?」
香りに気を取られていると、頭上から山中さんの声が聴こえてきた。
恐る恐る見上げた山中さんの顔は、川畑さんにしか見えない。
「はい、大丈夫です」
たったひと言答えるだけなのに、胸がぞわぞわしてくる。どうしてなのか、自分でもよくわからない気持ちに戸惑ってしまう。
「山中さん、優しくしてあげてくださいよ、有希ちゃん、すごく頑張ってるんですから」
ひょっこりと仲岡さんが顔を覗かせる。
おかげで少しだけ気分が楽になったけど、なんだか落ち着かない。