今度こそ、練愛

そういえば今日は岩倉君が来ていない。
いつも私より先に出社して窓拭きをしてくれているのに、今朝は高杉さんが済ませていてくれたんだった。シフト表では休暇にはなっていなかったけど……と気になっていた頃、仲岡さんが出社してきた。



「あれ? 今日は岩倉君お休みですか?」



すぐに岩倉君が居ないことに気がついて、高杉さんに問い掛ける。



「そうなのよ、体調不良だって。岩倉君、最近疲れてるのかもしれないわね」

「先日の宴会でもあんな感じでしたもんね、普段は何にも言わないけど内に秘めてるのかもしれないですね」



仲岡さんの言葉は少し納得できるかもと思った。



いつも口数少なくて無愛想に振舞っているけれど、接客している時の岩倉君はまるで人が変わったように明るくて快活。そのギャップに岩倉君自身も疲れているのかもしれない。



「あなたたちも体調管理には気をつけてね、大隈さんは特に要注意よ。今日は配達も無いし、山中さんが来るまでのんびり過ごしましょう」

「はい、山中さんが来るんですね……ドキドキだよね」



きりっとした高杉さんの声に背筋が伸びる。同時に仲岡さんが繰り返す山中さんの名前に、もぞもぞと胸の中がざわめき始める。



いよいよ、山中さんが来るんだ。




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