今度こそ、練愛

結局、山中さんは部屋の中まで上がりこんできた。



本当は部屋の入口で帰ってもらうつもりだったけれど、山中さんが引き下がらないから。まさか、こんな状況で間違いをするような人ではないだろう。



私をベッドに寝かせて、山中さんはドラッグストアで買ってきた冷却シートを取り出した。優しく前髪を上げて冷却シートをおでこに貼ってくれると、きんとした冷たさが頭に染み込んでくる。



ようやく慣れてきて目を開けると、山中さんがバッグの外ポケットからスマホを取り出して枕元に置いた。



「明日は休むように、高杉さんには言っておくから」



そう言うと台所へ。ドラッグストアの買い物袋から栄養ドリンクを出して、冷蔵庫の中へとしまい込んでいく。
山中さんを見ながら、こっそりと枕元のスマホを取り上げた。着信は表示されていない。



「ドリンクも入れておくから後で飲むように、解熱剤は今飲もう」



何のためらいもなく食器棚からコップを出して、水を汲んで薬と一緒に私の所へ戻ってくる。



私は山中さんの店の従業員であり、山中さんは従業員のために優しくしてくれているだけ。
それ以上に、何にも他意はない。



決して、山中さんの優しさに溺れてはいけない。



山中さんだからいけないのなら、川畑さんだったら?

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