今度こそ、練愛
「有希ちゃん、配達終わった?」
電話に出てくれたのは仲岡さん。声を聞いたら不安がこみ上げてきて泣きそうになってしまう。
「まだです、お客さんの会社が見つからなくて……、頂いた住所は会社とは全然違う普通のお宅だったんです、近所の人に聞いてもこの辺りに会社なんてないって言われてしまって……」
不安をたたみ込むように一気に経緯を話した。
ひとしきり考え込んで唸っている仲岡さんの向こうから、高杉さんの声が聴こえてくる。仲岡さんは、高杉さんに相談して掛け直すと言って電話を切った。
バス停の屋根に打ち付ける雨音が、ずいぶんと大きくなってきた気がする。道路を通り過ぎていく車の跳ねる水飛沫が、縁石を超えて歩道にまで飛び散ってきてる。
電話を待っている時間は実際にはほんの僅かだけど、私にはやたらと長く感じられた。
やがて電話を掛け直してくれたのは高杉さん。
「大隈さん、とりあえず帰ってきて。お客さんに電話したけど違うお宅に掛かってしまうの、こっちで調べてみるから気をつけて帰ってきて」
きっと電話に出たのは、さっき私がかけた時と同じ年老いた女性だろう。度々いい迷惑だと思っているに違いない。
高杉さんも焦っているらしく、早口で告げて電話を切られてしまった。