今度こそ、練愛

沈黙に押し潰されそうなまま、私は助手席で固まっていた。



いつの間にか車は三つ隣りの駅前を走っている。駅から延びる通り沿いには、比較的小さな商店が立ち並んで懐かしい雰囲気。
ところが中にはシャッターが閉まっている商店や更地になった土地がちらほらと見られる。
大型のショッピングセンターができた影響だろうかと考えながら、窓の外を見ていると車が停まった。



目の前には更地がぽつんと残されている。



「ここに僕の実家があったんだ」



山中さんの小さな声が耳を掠めた。



高杉さんに聴いた『フラワーショップ・カワバタ』が、ここにあったというのだろう。振り向くこともできず、窓の向こうの更地を見つめたまま山中さんの声に耳を澄ませる。



「実家は花屋で、両親が離婚した後、母がひとりで店を守っていたんだ……」



遠い記憶へと思いを馳せる山中さんは、どんな表情をしているのだろう。気になってどうしようもないのに振り向くことはできない。
私は山中さんを思いきり突き放してしまったのだから。



山中さんは高杉さんの話してくれなかったことまで細かく話してくれた。



二年前にお母さんが倒れたこと、お母さんの店を守るために坂口さんのお父さんから援助を受けていること。そして援助の条件が坂口さんとの結婚だったこと。



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