今度こそ、練愛
なんとか気持ちを落ち着かせようとしながら、胸の一番底に沈んでいる言葉を見つけて拾い上げた。
「山中さん、婚約者がいるんですよね」
ほんの僅かだけど、山中さんの口元が引き攣ったのがわかる。
きっと動揺しているのだろう。
私に覚られまいと真っ直ぐ前を見据えたまま、振り向こうともしない。
「先日、一緒に店に来られた方が婚約者ですよね。私、展示会の会場でお会いしたんです」
「そうか、知ってたんだ」
諦めたような声とともに、強張っていた表情が解けていく。
「はい、会場ではきついことを言われましたが綺麗な方ですね、山中さんと良くお似合いだと思います」
「本気でそう思ってる?」
「もちろんです、婚約者がいらっしゃるのに、代行の仕事なんかして他の女性と遊ぶなんて彼女が悲しみますよ、彼女を愛しているんでしょう?」
言ってしまった後、ぎゅっと胸を締め付けられる。
なんてバカなんだろう。
どうして、こんなことを言ってしまったんだろう。
どっと込み上げてくる後悔に、体中が震え出しそうになる。
山中さんは再び口を噤んだ。険しく固まった表情は少しも崩れそうにない。
きっと怒らせてしまったんだろう。