今度こそ、練愛
やがて車の中は沈黙。母の落ち着かない様子が助手席にいる私にも伝わってくる。
私だって落ち着かない。
母に嘘を吐いてる罪悪感と嘘がバレたらどうしようという恐怖。本当に彼氏を親に紹介する時も、こんな風に緊張するのだろうか。
何か話した方がいいのかな……と思うけど、適当な言葉が出てこない。考えるほどに言葉は深みへと沈んでいく。
「昭仁さんは普段から車を運転されてるの?」
母が沈黙を断ち切って、川畑さんに問い掛けた。運転席と助手席の間から川畑さんの顔を覗き込む。
川畑さんは、きゅっと口角を上げて振り返った。これまでの川畑さんには見たことのない自然で柔らかな笑顔。
「はい、運転は好きなのでよく乗ってます。用も無いのにドライブとか、好きですね」
「やっぱり、運転が慣れてる感じで上手だと思ったの、有希も昭仁さんに教えてもらいなさいよ」
後ろから母に頭をつんと突かれて、自分の状況を思い出した。母に笑って答える川畑さんの顔をじっくり観察しそうになっていたところ。
「え? 私はいいよ、乗れなくても不自由ないし」
大急ぎで会話を思い出して答えた。
振り向いたら母は口を尖らせて、拗ねたような顔をしている。